傷病手当と失業保険はどちらが得?あなたの状況別に受給すべき制度を解説

退職前後に「傷病手当と失業保険、どちらを受け取るべきか」「どちらが金額的に得なのか」と悩む方は多いです。

結論から言えば、どちらが得かは「今すぐ働ける状態かどうか」と「月収の金額」によって変わります。

本記事では、傷病手当と失業保険のどちらが得かを判断するためのポイントや、それぞれの制度の違い、両方を活用して受給額を最大化する方法まで詳しく解説します。

目次

傷病手当と失業保険はどちらが得?判断する3つの基準

傷病手当金と失業保険は、どちらも働けなくなったときの生活を支える大切な制度です。

しかし、この2つは受給できる条件がまったく異なるため、自分の状況に合った方を選ぶ必要があります。

どちらを選ぶべきか迷ったときは、以下の3つの基準で判断しましょう。

【基準①】今すぐ働ける状態か・療養が必要か

最も重要な判断基準は「今すぐ働けるかどうか」です。

傷病手当金は「働けない状態」であることが支給条件となっています。

一方、失業保険は「働く意思と能力がある」ことが前提の制度です。

ハローワークの公式サイトでは、失業保険の受給要件として以下のように説明されています。

「就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない『失業の状態』にあること」 引用元:ハローワークインターネットサービス|基本手当について

つまり、傷病手当金の「働けない状態」と失業保険の「働ける状態」は矛盾するため、この2つを同時に受給することは制度上できません。

あなたの状態に応じて、以下のように選択してください。

  • 病気やケガで療養が必要で働けない → 傷病手当金を選ぶ
  • 体調は回復しており、すぐに働ける状態 → 失業保険を選ぶ
  • 現在は働けないが、将来的に回復見込みがある → 傷病手当金を先に受給し、回復後に失業保険へ切り替える

自分の健康状態を正確に把握することが、どちらの制度を選ぶかの第一歩となります。

【基準②】月収30万円以上かどうかで受給額が変わる

金額面でどちらが得かは、退職前の月収によって変わってきます。

傷病手当金と失業保険では、支給額の計算方法が異なるためです。

制度計算方法支給割合
傷病手当金標準報酬月額÷30日×2/3約66%
失業保険賃金日額×50〜80%50〜80%

傷病手当金は一律で給与の約66%が支給されます。

失業保険は賃金が低いほど給付率が高くなる仕組みで、最大80%まで支給されます。

このため、月収による違いは以下のようになります。

  • 月収30万円未満の場合 → 失業保険の方が日額が高くなるケースが多い
  • 月収30万円以上の場合 → 傷病手当金の方が日額が高くなる傾向がある

たとえば、標準報酬月額が30万円の方の場合、傷病手当金の日額は約6,667円となります。

同じ条件で失業保険を計算すると、年齢にもよりますが日額5,000〜6,000円程度になることが多いです。

高収入の方ほど傷病手当金の方が有利になりやすいと覚えておきましょう。

【基準③】どのくらいの期間受給したいか

受給期間の長さも、制度選びの重要なポイントです。

傷病手当金と失業保険では、受給できる最長期間が大きく異なります。

制度最長受給期間備考
傷病手当金通算1年6ヵ月2022年1月から通算方式に変更
失業保険90日〜330日年齢・退職理由・雇用保険加入期間により異なる

傷病手当金は、病気やケガが長引く場合でも最長1年6ヵ月間受給できます。

2022年1月の法改正により、途中で復職した期間があっても通算で1年6ヵ月分受け取れるようになりました。

「同一のケガや病気に関する傷病手当金の支給期間が、支給開始日から通算して1年6か月に達する日まで対象となります。支給期間中に途中で就労するなど、傷病手当金が支給されない期間がある場合には、支給開始日から起算して1年6か月を超えても、繰り越して支給可能になります。」 引用元:厚生労働省|令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます

一方、失業保険の給付日数は自己都合退職なら最長150日、会社都合退職でも最長330日です。

長期の療養が必要な方は傷病手当金、短期間で再就職を目指す方は失業保険が向いています。


【早見表】傷病手当と失業保険の違いを一覧で比較

傷病手当金と失業保険は名前が似ているため混同されがちですが、まったく別の制度です。

ここでは、両制度の違いを項目ごとに詳しく比較していきます。

どちらの制度が自分に合っているか判断する際の参考にしてください。

受給条件の違い

傷病手当金と失業保険では、受給するための条件が根本的に異なります。

項目傷病手当金失業保険(基本手当)
対象者健康保険の被保険者雇用保険の被保険者
加入期間退職後も受給する場合は1年以上離職前2年間に12ヵ月以上(会社都合は6ヵ月以上)
健康状態働けない状態であること働ける状態であること
求職活動不要必要(4週間に2回以上)

傷病手当金は「働けない」ことが条件で、失業保険は「働ける」ことが条件です。

この点が最も大きな違いであり、両制度を同時に受給できない理由でもあります。

協会けんぽの公式サイトでは、傷病手当金の支給条件として「仕事に就くことができないこと」が挙げられています。

「仕事に就くことができない状態の判定は、療養担当者の意見等を基に、被保険者の仕事の内容を考慮して判断されます。」 引用元:全国健康保険協会|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)

また、傷病手当金は健康保険から、失業保険は雇用保険から支給されるという違いもあります。

受給額の計算方法の違い

支給額の計算方法も、両制度で大きく異なります。

傷病手当金の計算式

傷病手当金の1日あたりの支給額は、以下の計算式で算出されます。

「支給開始日以前12ヵ月間の各月の標準報酬月額の平均額 ÷ 30日 × 2/3」

たとえば、標準報酬月額の平均が30万円の場合は以下のようになります。

30万円 ÷ 30日 × 2/3 = 6,667円(1日あたり)

失業保険の計算式

失業保険の基本手当日額は、以下の計算式が基本となります。

「離職前6ヵ月間の賃金総額 ÷ 180日 × 50〜80%」

給付率は賃金日額と年齢によって変動し、賃金が低いほど高い給付率が適用されます。

賃金日額の目安給付率
約5,110円以下80%
約5,110円〜約12,000円程度50〜80%
約12,000円以上50%

このように、傷病手当金は一律約66%ですが、失業保険は収入に応じて50〜80%と幅があります。

受給期間の違い

受給できる期間にも、両制度で明確な違いがあります。

傷病手当金の受給期間

傷病手当金は、支給開始日から通算して最長1年6ヵ月間受給できます。

途中で一時的に復職して受給が止まっても、再び働けなくなれば残りの期間分を受け取れます。

「傷病手当金が支給される期間は、支給を開始した日から通算して1年6ヵ月です。」 引用元:全国健康保険協会|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)

失業保険の受給期間

失業保険の給付日数は、退職理由・年齢・雇用保険の加入期間によって異なります。

退職理由給付日数
自己都合退職90〜150日
会社都合退職(特定受給資格者)90〜330日
特定理由離職者90〜330日

自己都合退職の場合、雇用保険に20年以上加入していても最長150日までしか受給できません。

会社都合退職の場合は、45歳以上60歳未満で20年以上加入していれば最長330日受給できます。

申請先・必要書類の違い

申請先や必要な書類も、それぞれの制度で異なります。

項目傷病手当金失業保険
申請先加入している健康保険組合または協会けんぽ住所地を管轄するハローワーク
必要書類傷病手当金支給申請書、医師の意見書、事業主の証明離職票、雇用保険被保険者証、本人確認書類、写真など
申請頻度1ヵ月ごとが一般的4週間に1回の失業認定

傷病手当金は医師の証明が必要なため、通院している病院で意見書を書いてもらう必要があります。

失業保険はハローワークで求職の申し込みをし、定期的に失業認定を受ける必要があります。


傷病手当と失業保険の受給額をシミュレーションで比較

実際にどのくらいの金額を受け取れるのか、年収別にシミュレーションしてみましょう。

具体的な数字を見ることで、どちらの制度が自分にとって有利かイメージしやすくなります。

なお、以下の計算はあくまで目安であり、実際の支給額は個人の状況によって異なります。

年収300万円の場合の受給額比較

年収300万円(月収25万円)の方のケースを見てみましょう。

傷病手当金の場合

  • 標準報酬月額:26万円(等級表に基づく)
  • 1日あたりの支給額:26万円 ÷ 30 × 2/3 ≒ 5,778円
  • 1ヵ月(30日)の支給額:約173,340円
  • 最長1年6ヵ月の総額:約312万円

失業保険の場合(35歳・自己都合退職・雇用保険加入10年以上)

  • 賃金日額:25万円 × 6ヵ月 ÷ 180日 ≒ 8,333円
  • 基本手当日額:約5,500〜6,000円(給付率約66〜72%)
  • 給付日数:120日
  • 総額:約66〜72万円

年収300万円の場合、1日あたりの金額は傷病手当金の方がやや低めですが、受給期間が長いため総額では傷病手当金が有利になります。

年収400万円の場合の受給額比較

年収400万円(月収約33万円)の方のケースです。

傷病手当金の場合

  • 標準報酬月額:34万円
  • 1日あたりの支給額:34万円 ÷ 30 × 2/3 ≒ 7,556円
  • 1ヵ月の支給額:約226,680円
  • 最長1年6ヵ月の総額:約408万円

失業保険の場合(35歳・自己都合退職・雇用保険加入10年以上)

  • 賃金日額:33万円 × 6ヵ月 ÷ 180日 ≒ 11,000円
  • 基本手当日額:約6,200〜6,800円(給付率約56〜62%)
  • 給付日数:120日
  • 総額:約74〜82万円

年収400万円になると、傷病手当金の日額が失業保険を上回り始めます。

特に長期療養が必要な場合は、傷病手当金の方が圧倒的に有利です。

年収500万円以上の場合の受給額比較

年収500万円(月収約42万円)以上の方のケースを見てみましょう。

傷病手当金の場合

  • 標準報酬月額:41万円
  • 1日あたりの支給額:41万円 ÷ 30 × 2/3 ≒ 9,111円
  • 1ヵ月の支給額:約273,330円
  • 最長1年6ヵ月の総額:約492万円

失業保険の場合(45歳・会社都合退職・雇用保険加入20年以上)

  • 賃金日額:42万円 × 6ヵ月 ÷ 180日 ≒ 14,000円
  • 基本手当日額:約7,000〜7,400円(上限額の影響)
  • 給付日数:330日
  • 総額:約231〜244万円

年収が高くなるほど、傷病手当金の優位性が際立ちます。

ただし、失業保険は会社都合退職で給付日数が長くなると総額も大きくなります。

失業保険の基本手当日額には年齢ごとの上限があり、令和7年8月1日現在、45歳以上60歳未満で8,870円となっています。

「基本手当日額は年齢区分ごとにその上限額が定められており、45歳以上60歳未満は8,870円となっています。」 引用元:ハローワークインターネットサービス|基本手当について


傷病手当と失業保険を両方もらうことはできる?

「できれば傷病手当金も失業保険も両方もらいたい」と考える方は少なくありません。

結論から言うと、同時に受給することはできませんが、順番に受け取ることは可能です。

ここでは、両方の給付を最大限活用する方法を解説します。

同時受給は不正受給になるため注意

傷病手当金と失業保険を同じ期間に受給することは、制度上認められていません。

なぜなら、傷病手当金は「働けない状態」が条件であり、失業保険は「働ける状態」が条件だからです。

この2つの条件を同時に満たすことは論理的に不可能です。

ハローワークの公式サイトでも、失業保険を受給できないケースとして以下が挙げられています。

「病気やけがのため、すぐには就職できないとき」 引用元:ハローワークインターネットサービス|基本手当について

もし両方を同時に申請・受給した場合、以下のようなリスクがあります。

  • 不正受給として全額返還を求められる
  • 延滞金や違約金が発生する可能性がある
  • 詐欺罪として刑事罰の対象になる場合もある

「バレなければ大丈夫」という考えは非常に危険です。

健康保険とハローワークは情報連携しているため、不正受給は必ず発覚します。

「傷病手当→失業保険」の順番で両方受け取る方法

同時受給はできませんが、順番に受け取ることで両方の給付を活用できます。

最も一般的なのは、傷病手当金を先に受給し、回復後に失業保険に切り替えるパターンです。

具体的な流れは以下のとおりです。

  1. 在職中または退職後に傷病手当金の受給を開始する
  2. 退職後30日以上経過したら、失業保険の「受給期間延長」を申請する
  3. 傷病手当金を受給しながら療養に専念する
  4. 体調が回復して働ける状態になったら医師の診断書をもらう
  5. ハローワークで延長を解除し、失業保険の受給手続きを行う

この方法なら、傷病手当金を最長1年6ヵ月受給した後、失業保険も全額受け取れます。

失業保険の受給期間延長を申請する手順

失業保険には「受給期間」という有効期限があり、原則として退職日の翌日から1年間です。

傷病手当金を受給していると、この1年間を過ぎてしまう可能性があります。

そのため、病気やケガで働けない状態が30日以上続く場合は、受給期間の延長申請が必要です。

「病気、けが、妊娠、出産、育児等の理由により引き続き30日以上働くことができなくなったときは、その働くことのできなくなった日数だけ、受給期間を延長することができます。ただし、延長できる期間は最長で3年間となっています。」 引用元:ハローワークインターネットサービス|基本手当について

延長申請の手順

  1. 退職後、働けない状態が30日以上続いたら申請可能になる
  2. ハローワークで「受給期間延長申請書」を入手する
  3. 医師の診断書など、延長理由を証明する書類を用意する
  4. 住所地を管轄するハローワークに申請書を提出する
  5. 延長が認められれば、最長で4年間(本来の1年+延長3年)に延長される

申請は本人がハローワークに行く方法のほか、郵送や代理人による申請も可能です。

申請が遅れると受給期間が足りなくなる恐れがあるため、早めの手続きを心がけましょう。


傷病手当をもらったまま退職した場合はどうなる?

在職中に傷病手当金を受給していた方が退職した場合、その後も継続して受給できるのか気になるところです。

条件を満たせば退職後も傷病手当金を受け取り続けることができます。

ただし、注意すべきポイントがいくつかあるため、しっかり確認しておきましょう。

退職後も傷病手当金を継続受給できる条件

退職後も傷病手当金を受給し続けるには、以下の条件をすべて満たす必要があります。

  • 退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あること
  • 退職日時点ですでに傷病手当金を受給しているか、受給条件を満たしていること
  • 退職日に出勤していないこと
  • 退職後も引き続き同じ病気やケガで働けない状態であること

これらの条件を満たしていれば、退職後も残りの期間(通算1年6ヵ月まで)傷病手当金を受給できます。

「資格喪失の日の前日(退職日等)までに被保険者期間が継続して1年以上あり、被保険者資格喪失日の前日に、現に傷病手当金を受けているか、受けられる状態であれば、資格喪失後も引き続き支給を受けることができます。」 引用元:全国健康保険協会|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)

特に「退職日に出勤していないこと」は見落としがちなポイントです。

退職の挨拶のために出勤し、その日の給与が支給されると受給資格を失う可能性があります。

退職後に傷病手当金が打ち切られるケース

退職後も傷病手当金を受給していた場合でも、以下のケースでは打ち切られます。

  • 病気やケガが回復して働ける状態になった場合
  • 一度でも「働ける状態」になった後、再び働けなくなった場合
  • 老齢年金を受給している場合(差額調整あり)
  • 障害厚生年金を受給している場合(差額調整あり)
  • 通算1年6ヵ月の受給期間が満了した場合

特に注意が必要なのは、一度でも「働ける状態」になった場合です。

「ただし、一旦仕事に就くことができる状態になった場合、その後更に仕事に就くことができない状態になっても、傷病手当金は支給されません。」 引用元:全国健康保険協会|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)

退職後に一度回復して求職活動を始めると、その後再発しても傷病手当金は受給できません。

体調が不安定な場合は、無理に求職活動を始めず慎重に判断しましょう。

退職後の健康保険の切り替えに関する注意点

退職すると会社の健康保険から脱退するため、何らかの健康保険に加入し直す必要があります。

退職後の選択肢は主に以下の3つです。

選択肢概要傷病手当金の継続
国民健康保険に加入市区町村の国民健康保険に加入継続可能(条件を満たしていれば)
任意継続被保険者になる退職前の健康保険に最長2年間継続加入継続可能(条件を満たしていれば)
家族の扶養に入る配偶者などの扶養に入る継続可能(条件を満たしていれば)

どの選択肢を選んでも、退職日時点で傷病手当金の受給条件を満たしていれば継続受給できます。

ただし、任意継続被保険者になった後に新たに発生した病気やケガについては、傷病手当金の対象外となります。

また、退職後は会社を通さず自分で直接健康保険組合や協会けんぽに申請書を提出する必要があります。


傷病手当のデメリット・欠点とは?受給前に知っておくべきこと

傷病手当金は病気やケガで働けないときの心強い制度ですが、デメリットもあります。

受給を検討する前に、欠点もしっかり理解しておきましょう。

「知らなかった」では済まないケースもあるため、事前の確認が大切です。

国民健康保険加入者は対象外になる

傷病手当金を受給できるのは、会社員など「健康保険」に加入している方だけです。

自営業者やフリーランスなど、国民健康保険に加入している方は対象外となります。

傷病手当金は健康保険法に基づく制度であり、国民健康保険には原則としてこの制度が設けられていません。

一部の国民健康保険組合では独自に傷病手当金制度を設けている場合もありますが、ごく少数です。

国民健康保険加入者が病気やケガで働けなくなった場合は、民間の就業不能保険などで備えておく必要があります。

また、パートやアルバイトでも、勤務先の健康保険に加入していれば傷病手当金の対象になります。

給与の満額は補償されない(約66%)

傷病手当金の支給額は、給与の約66%(正確には2/3)です。

残りの約34%は補償されないため、収入は確実に減少します。

たとえば月収30万円の方の場合、傷病手当金では約20万円しか受け取れません。

項目金額
通常の月収30万円
傷病手当金(月額)約20万円
減少額約10万円

住宅ローンや家賃、生活費などの固定費を考えると、この減少額は大きな負担になる可能性があります。

傷病手当金だけでは生活が厳しい場合は、以下の対策を検討しましょう。

  • 民間の医療保険や就業不能保険に加入しておく
  • 貯蓄で不足分をカバーする
  • 支出を見直して固定費を削減する

療養中に経済的な不安を抱えないためにも、事前の備えが重要です。

申請に医師の証明が必要で手間がかかる

傷病手当金を申請するには、医師による「労務不能」の証明が必要です。

申請書には医師が記入する欄があり、通院のたびに記入を依頼する必要があります。

申請に必要な書類は以下のとおりです。

  • 傷病手当金支給申請書(本人記入欄)
  • 医師の意見書(申請書の医師記入欄)
  • 事業主の証明(申請書の事業主記入欄)
  • 本人確認書類

医師の意見書には文書料がかかることが多く、1回あたり数百円〜数千円程度の費用が発生します。

また、申請書類に不備があると再申請が必要になり、支給が遅れる原因になります。

書類の準備は余裕を持って行い、不明点は健康保険組合に確認しましょう。

有給休暇を使った日は支給対象外になる

傷病手当金は「給与が支払われない日」に対して支給される制度です。

そのため、有給休暇を使って給与が支払われた日は、傷病手当金の支給対象外となります。

たとえば、1ヵ月のうち10日間有給を使い、残りの20日間は無給で休んだ場合、傷病手当金は20日分のみ支給されます。

ただし、以下のケースでは差額が支給される場合があります。

「給与の支払いがあっても、傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。」 引用元:全国健康保険協会|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)

有給休暇を使い切ってから傷病手当金を申請するか、有給を残しておくかは、状況に応じて判断しましょう。


失業保険のデメリット・注意点も確認しておこう

失業保険にもいくつかのデメリットや注意点があります。

傷病手当金と比較検討する際の参考にしてください。

知らずに損をしないよう、事前に確認しておきましょう。

自己都合退職の場合は給付制限期間がある

自己都合で退職した場合、すぐに失業保険を受け取ることはできません。

7日間の待期期間に加えて、給付制限期間が設けられているためです。

退職理由待期期間給付制限期間
会社都合退職7日間なし
自己都合退職(2025年4月以降)7日間1ヵ月
自己都合退職(5年以内に2回以上の自己都合退職)7日間3ヵ月

2025年4月の雇用保険法改正により、自己都合退職の給付制限期間が2ヵ月から1ヵ月に短縮されました。

それでも約1ヵ月半は収入がない状態が続きます。

退職前に生活費を確保しておくか、退職後すぐに収入を得る方法を考えておく必要があります。

求職活動の実績が必要になる

失業保険を継続して受給するには、定期的な求職活動の実績が必要です。

原則として、4週間に2回以上の求職活動を行い、失業認定日にハローワークで報告する必要があります。

求職活動として認められる例は以下のとおりです。

  • ハローワークでの職業相談・職業紹介
  • 求人への応募(書類選考、面接など)
  • 転職サイトやエージェントへの登録・相談
  • 就職セミナーや転職フェアへの参加
  • 資格試験の受験

病気やケガで通院が必要な場合や、体調が不安定な場合は、この求職活動が負担になることがあります。

療養が必要な場合は、無理に失業保険を受給せず傷病手当金を選ぶ方が現実的です。

再就職が決まると受給が終了する

失業保険は「失業中」であることが受給条件のため、再就職が決まると支給が終了します。

パートやアルバイトでも、週20時間以上働くと雇用保険の被保険者となり、失業状態ではなくなります。

ただし、早期に再就職した場合は「再就職手当」を受け取れる可能性があります。

残りの給付日数再就職手当の支給率
所定給付日数の2/3以上基本手当日額の70% × 残日数
所定給付日数の1/3以上基本手当日額の60% × 残日数

たとえば、所定給付日数120日のうち30日を受給した時点で再就職した場合、残り90日分の70%(63日分)の再就職手当が一括で支給されます。

早く再就職することで、再就職手当と新しい職場からの給与の両方を得られるメリットがあります。


傷病手当と失業保険のどちらを受けるべき?ケース別の選び方

ここまで両制度の違いを解説してきましたが、実際にどちらを選べば良いか迷う方も多いでしょう。

ここでは、よくあるケース別に最適な選択肢を解説します。

自分の状況に近いケースを参考にしてください。

うつ病などメンタル不調で退職を考えている場合

うつ病や適応障害などのメンタル不調で退職を考えている場合は、まず傷病手当金の受給を検討しましょう。

メンタル不調は回復に時間がかかることが多く、退職後すぐに求職活動を始めるのは難しいケースがほとんどです。

推奨される流れは以下のとおりです。

  1. 在職中に傷病手当金の申請を開始する(退職前から受給しておくと退職後も継続しやすい)
  2. 退職後、働けない状態が30日以上続く場合は失業保険の受給期間延長を申請する
  3. 傷病手当金を受給しながらしっかり療養に専念する
  4. 主治医から「就労可能」と診断されたら失業保険に切り替える

精神疾患の場合、焦って求職活動を始めると症状が悪化するリスクがあります。

医師と相談しながら、無理のないペースで回復を目指しましょう。

傷病手当金は最長1年6ヵ月受給できるため、じっくり療養する時間を確保できます。

怪我や病気で一時的に働けない場合

骨折や手術など、一時的に働けないが数週間〜数ヵ月で回復が見込める場合は、状況に応じて判断が必要です。

回復まで1ヵ月程度の場合

傷病手当金を申請するよりも、有給休暇を使って休み、回復後に失業保険を受給する方がシンプルです。

傷病手当金の申請には医師の証明が必要で手続きに手間がかかるため、短期間なら有給で対応した方が効率的です。

回復まで2〜3ヵ月以上かかる場合

傷病手当金を申請することをおすすめします。

有給休暇には限りがあり、2〜3ヵ月以上の休業では有給だけでカバーできないケースが多いためです。

傷病手当金と有給休暇の使い分けのポイントは以下のとおりです。

  • 有給休暇の日額 > 傷病手当金の日額 → 有給休暇を先に使う
  • 有給休暇の日額 ≦ 傷病手当金の日額 → 傷病手当金を優先する

どちらが有利かは個人の状況によって異なるため、事前にシミュレーションしてみましょう。

体調は回復しているが再就職先が決まっていない場合

体調は回復して働ける状態になったものの、まだ再就職先が決まっていない場合は失業保険を選びましょう。

この場合、傷病手当金は受給できません。

傷病手当金は「働けない状態」が条件であり、働ける状態になった時点で受給資格を失うためです。

失業保険を受給しながら求職活動を行う流れは以下のとおりです。

  1. 離職票をハローワークに持参し、求職の申し込みをする
  2. 7日間の待期期間を経て、受給資格が決定する
  3. 雇用保険説明会に出席し、失業認定日が決まる
  4. 4週間に1回、失業認定を受けて基本手当を受給する
  5. 再就職先が決まるまで求職活動を続ける

傷病手当金から失業保険に切り替えたばかりの方は、主治医の意見書があると手続きがスムーズです。

病気やケガを理由に退職した「特定理由離職者」として認定されれば、給付制限期間が免除される場合があります。

退職後すぐに転職活動を始めたい場合

体調に問題がなく、退職後すぐに転職活動を始めたい場合は迷わず失業保険を選びましょう。

傷病手当金は「働けない状態」の人のための制度であり、働ける状態の人は受給できません。

退職後すぐに転職活動を始める場合のポイントは以下のとおりです。

  • 退職前に離職票が届くタイミングを確認しておく
  • 退職後できるだけ早くハローワークで手続きを行う
  • 転職サイトやエージェントにも登録しておく
  • 再就職手当を意識して早期の就職を目指す

早期に再就職が決まれば、残りの給付日数に応じた再就職手当を一括で受け取れます。

失業期間が長引くと転職活動で不利になる場合もあるため、積極的に行動しましょう。


傷病手当と失業保険に関するよくある質問

最後に、傷病手当金と失業保険に関してよく寄せられる質問にお答えします。

疑問を解消して、自分に合った制度を正しく活用しましょう。

Q. 傷病手当と失業手当のどちらを受けるべきですか?

A. 今すぐ働ける状態かどうかで判断しましょう。

病気やケガで療養が必要で働けない状態なら、傷病手当金を選んでください。

体調が回復していて働く意思と能力があるなら、失業保険を選びましょう。

金額面では、月収30万円以上の方は傷病手当金の方が日額が高くなる傾向があります。

月収30万円未満の方は、失業保険の方が給付率が高くなるケースが多いです。

どちらか迷う場合は、まず医師に相談して自分の健康状態を正確に把握することが大切です。

Q. 傷病手当をもらったまま退職したらどうなる?

A. 条件を満たしていれば、退職後も継続して受給できます。

継続受給の条件は以下の4つです。

  • 退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上ある
  • 退職日時点で傷病手当金を受給しているか、受給条件を満たしている
  • 退職日に出勤していない
  • 退職後も同じ病気やケガで働けない状態が続いている

特に注意が必要なのは「退職日に出勤しないこと」です。

退職の挨拶で出勤し、その日の給与が支払われると受給資格を失う可能性があります。

退職日は自宅で療養し、挨拶は別の日に済ませるか、電話やメールで対応しましょう。

Q. 傷病手当をもらっているのに失業保険をもらうことはできますか?

A. 同時に受給することはできません。

傷病手当金は「働けない状態」が条件であり、失業保険は「働ける状態」が条件です。

この2つの条件を同時に満たすことは論理的に不可能なため、同時受給は認められていません。

もし両方を同時に申請・受給すると、不正受給として全額返還を求められます。

ただし、順番に受け取ることは可能です。

傷病手当金を先に受給し、体調が回復してから失業保険に切り替えることで、両方の給付を活用できます。

失業保険の受給期間延長を申請しておけば、傷病手当金の受給終了後に失業保険を受け取れます。

Q. 傷病手当の欠点は何ですか?

A. 主な欠点は以下の4つです。

  • 国民健康保険加入者は対象外(自営業者・フリーランスは受給できない)
  • 給与の約66%しか補償されない(約34%の収入減)
  • 申請に医師の証明が必要で手間と費用がかかる
  • 有給休暇を使った日は支給対象外になる

特に大きな欠点は、給与の満額が補償されない点です。

月収30万円の方でも、傷病手当金では約20万円しか受け取れません。

住宅ローンや家賃などの固定費が高い方は、傷病手当金だけでは生活が厳しくなる可能性があります。

民間の医療保険や就業不能保険に加入しておくことで、この欠点をカバーできます。

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