傷病手当金を申請したいけれど、会社が嫌がりそうで言い出せない、という方は少なくありません。
実際に申請を渋られたり、手続きを後回しにされたりするケースも報告されています。
しかし、傷病手当金は労働者に認められた正当な権利であり、会社の都合で拒否できるものではありません。
本記事では、会社が傷病手当金の申請を嫌がる本当の理由から、スムーズに申請を進めるための伝え方、万が一協力を得られない場合の対処法まで詳しく解説します。
会社が傷病手当金の申請を嫌がる理由とは?【よくある4つの原因】
傷病手当金の申請を会社に相談したとき、なぜか消極的な反応をされた経験はありませんか。
実はこうした対応の背景には、会社側のさまざまな事情や誤解が隠れています。
「申請に協力したくない」という明確な悪意があるケースは少なく、制度への理解不足や実務上の負担が原因となっていることがほとんどです。
ここでは、会社が申請を嫌がる代表的な4つの理由を解説します。
会社側がなぜ消極的になるのかを理解しておくことで、スムーズな申請につなげることができます。
| 嫌がる理由 | 内容 | 実際のところ |
|---|---|---|
| 事務手続きの負担 | 書類作成や勤怠情報の整理が面倒 | 記入例を参照すれば難しくない |
| 業務への影響 | 休職による人員不足を懸念 | 申請拒否は法的に認められない |
| 費用負担の誤解 | 会社が手当を支払うと思っている | 健康保険から支給される |
| 社会保険料の継続負担 | 休職中も会社負担が発生する | 事実だが拒否理由にはならない |
これらの理由を知っておくと、会社との話し合いがしやすくなります。
事務手続きの負担が増えることへの懸念
傷病手当金の申請には「健康保険傷病手当金支給申請書」という書類が必要です。
この申請書には、被保険者本人が記入する欄のほかに、事業主が記入する欄があります。
事業主記入欄には、申請者の勤務状況や給与の支払い状況など、詳細な情報を記載しなければなりません。
特に中小企業では、これまで傷病手当金の申請に携わった経験がなく、書き方がわからないという担当者も少なくありません。
全国健康保険協会の公式サイトでは、申請書の記入例が公開されています。
申請書>健康保険給付の申請書>健康保険傷病手当金支給申請書より記入例をご確認ください。
このように公式の記入例を活用すれば、書類作成はそれほど難しくありません。
会社が「手続きが複雑そう」と感じている場合は、記入例のページを一緒に確認することで、不安を解消できる可能性があります。
従業員の休職による業務への影響を心配している
従業員が病気やケガで長期間休職すると、その間の業務をどうするかが会社にとっての課題となります。
特に少人数の職場では、一人が抜けるだけで業務が回らなくなることもあります。
会社が懸念するポイントとしては、主に以下のようなものがあります。
- 業務の引き継ぎに時間がかかる
- 代替要員の確保が難しい
- 他の従業員への負担が増加する
- 休職期間が長期化する可能性がある
しかし、こうした業務上の問題と傷病手当金の申請は、本来別の問題です。
従業員が療養に専念できる環境を整えることは、結果的に早期復帰につながる場合も多いのです。
申請を先延ばしにしたからといって、業務の問題が解決するわけではありません。
会社が費用を負担すると誤解している
傷病手当金について「会社が支払うもの」と誤解しているケースがあります。
これは制度を正しく理解していないことが原因です。
傷病手当金は、会社が支払うものではなく、加入している健康保険から支給されます。
全国健康保険協会の公式サイトでも、この点が明確に説明されています。
傷病手当金は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。
つまり、会社が申請に協力しても、会社の利益が減るわけではありません。
もし会社がこの点を誤解しているようであれば、制度の仕組みを丁寧に説明することで解決できます。
休職中も社会保険料の負担が続くことへの不満
従業員が休職している間も、健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料は発生し続けます。
社会保険料は会社と従業員で折半して負担するため、休職中も会社負担分は支払いが必要です。
休職が長期化すると、会社にとっては給与を払っていないのに社会保険料だけが発生する状態になります。
| 項目 | 休職中の扱い |
|---|---|
| 給与 | 原則として支払いなし |
| 健康保険料(会社負担分) | 支払い継続 |
| 厚生年金保険料(会社負担分) | 支払い継続 |
| 傷病手当金 | 健康保険から本人へ支給 |
このような背景から、会社が申請に消極的になる場合があります。
しかし、これを理由に申請を拒否することは認められていません。
社会保険料の負担は制度上の仕組みであり、従業員の権利行使を妨げる理由にはならないのです。
傷病手当金の申請は会社に言いづらい?上手な伝え方とタイミング
傷病手当金の申請を会社に切り出すのは、なかなか勇気がいるものです。
「迷惑をかけてしまうのではないか」「申請したいと言ったら嫌な顔をされないか」と不安になる方も多いでしょう。
しかし、伝え方やタイミングを工夫することで、会社との関係を損なわずに申請を進めることができます。
ここでは、申請を切り出すベストなタイミングと、相手に配慮した伝え方のコツを紹介します。
申請を伝えるベストなタイミングはいつか
傷病手当金の申請を伝えるタイミングとしては、以下のような時点が適切です。
- 医師から療養が必要だと診断されたとき
- 休職が決まった段階
- 有給休暇を使い切る見込みが立ったとき
早めに伝えることで、会社側も準備の時間を確保できます。
「もう少し様子を見てから」と先延ばしにすると、申請手続きが遅れ、支給までの期間も長くなってしまいます。
傷病手当金は、申請してから支給されるまでに一定の時間がかかります。
協会けんぽの場合、書類に不備がなければ受付から10営業日程度で支給されますが、初回申請時は2週間から1ヶ月程度かかることもあります。
生活費の確保という観点からも、早めの相談を心がけましょう。
人事・総務への伝え方の具体例
傷病手当金の申請を伝える際は、感情的にならず、事実を淡々と伝えることが大切です。
伝えるときのポイントを押さえておきましょう。
- 傷病手当金は健康保険の制度であることを伝える
- 会社に金銭的な負担がかからないことを説明する
- 申請に必要な協力内容を具体的に伝える
- 回復後の復職意思があることを示す(該当する場合)
「制度に基づいた正当な権利である」という点を冷静に伝えることで、会社側も理解しやすくなります。
また、「ご迷惑をおかけしますが」「お手数をおかけして申し訳ありません」といった配慮の言葉を添えると、より良い関係を保ちながら申請を進められます。
メールや書面で依頼する際の文例
口頭で伝えにくい場合は、メールや書面で依頼する方法も有効です。
記録が残る形式で依頼することには、以下のようなメリットがあります。
- 言った・言わないのトラブルを防げる
- 会社側が確認しながら対応できる
- 依頼内容を明確に伝えられる
以下に、実際に使える文例を紹介します。
件名:傷病手当金申請に関するお願い
お疲れ様です。○○部の△△です。
このたび、○月○日より療養のため休業させていただいておりますが、傷病手当金の申請を行いたく、ご連絡いたしました。
傷病手当金の申請に必要な「事業主記入欄」へのご対応をお願いしたく存じます。
申請期間は○月○日から○月○日までを予定しております。
必要な記入箇所についてご不明な点がございましたら、協会けんぽの公式サイトに記入例がございますので、ご参照いただければ幸いです。
お忙しいところ恐縮ですが、○月○日までにご対応いただけますと助かります。
どうぞよろしくお願いいたします。
このように、必要な情報を整理して伝えることで、会社側もスムーズに対応しやすくなります。
傷病手当金の申請を会社が拒否・協力しない場合の対処法
丁寧に依頼しても、会社が申請に協力してくれないケースがあります。
「忙しい」「やり方がわからない」と言われて後回しにされたり、明確に拒否されたりすることもあるでしょう。
しかし、事業主には傷病手当金の申請に協力する法的義務があります。
ここでは、会社が非協力的な場合に取るべき具体的な対処法を段階的に解説します。
健康保険組合や協会けんぽに直接相談する
会社が協力してくれない場合、最も効果的なのは加入している健康保険の保険者に相談することです。
協会けんぽや健康保険組合は、被保険者からの相談を受け付けています。
会社が事業主証明の記入を拒否している状況を説明すると、保険者から会社に対して協力を促す連絡が入ることがあります。
保険者は、厚生労働省令で定めるところにより、被保険者を使用する事業主に、(中略)報告をさせ、又は文書を提示させ、その他この法律の施行に必要な事務を行わせることができる。
引用元:健康保険法第197条
つまり、保険者には会社に対して必要な書類の提出を求める権限があるのです。
一人で悩まず、まずは保険者への相談を検討しましょう。
公式資料を提示して制度への理解を求める
会社が協力しない理由が「制度をよく知らない」「書き方がわからない」という場合は、公式資料を提示することで解決できることがあります。
提示すると効果的な資料としては、以下のようなものがあります。
- 全国健康保険協会の公式サイトにある制度説明ページ
- 傷病手当金支給申請書の記入例
- 会社向けに作成された制度解説資料
会社の担当者が制度を理解すれば、協力してもらえるケースは多いです。
感情的にならず、あくまで事実に基づいて説明することがポイントです。
社会保険労務士や弁護士など専門家に相談する
会社との直接交渉がうまくいかない場合は、第三者の専門家に相談する方法があります。
社会保険労務士は、傷病手当金の申請に関する専門知識を持っており、申請書の作成代行や会社との調整を行うことができます。
| 相談先 | 対応内容 | メリット |
|---|---|---|
| 社会保険労務士 | 申請書作成、会社との調整 | 制度に詳しく実務的なサポートが可能 |
| 弁護士 | 法的観点からのアドバイス | 悪質なケースへの対応が可能 |
| 労働組合 | 会社との交渉支援 | 従業員の立場に立った支援が受けられる |
専門家が間に入ることで、会社側が姿勢を軟化させることも少なくありません。
一人で抱え込まず、専門家の力を借りることも選択肢として覚えておきましょう。
給付金サポートサービスを活用する
傷病手当金の申請手続きに不安がある方や、会社との交渉に疲れてしまった方は、給付金サポートサービスを利用するという選択肢もあります。
こうしたサービスでは、申請に必要な書類の準備から会社とのやり取りまで、専門スタッフがサポートしてくれます。
サービスを利用するメリットを整理すると、以下のようになります。
- 申請手続きの負担を大幅に軽減できる
- 書類の不備による差し戻しを防げる
- 会社との直接のやり取りを避けられる
- 受給資格があるかどうかを事前に確認できる
療養中は心身ともに余裕がないことが多いため、プロに任せることで安心して治療に専念できます。
傷病手当金を受け取るために必要な4つの条件
傷病手当金を受給するためには、定められた条件をすべて満たす必要があります。
「自分は対象になるのか」「どんな場合に受け取れるのか」を事前に確認しておくことが大切です。
ここでは、傷病手当金の支給要件として定められている4つの条件を、わかりやすく解説します。
業務外の病気やケガによる療養であること
傷病手当金の対象となるのは、業務外の事由による病気やケガです。
仕事中のケガや、通勤途中の事故など、業務に関連するものは「労災保険」の対象となるため、傷病手当金は支給されません。
| 傷病の原因 | 適用される制度 |
|---|---|
| 業務中のケガ・病気 | 労災保険(休業補償給付) |
| 通勤中のケガ | 労災保険(休業補償給付) |
| プライベートでのケガ・病気 | 健康保険(傷病手当金) |
プライベートの時間に起きたケガや、仕事とは関係のない病気であれば、傷病手当金の申請が可能です。
なお、労災に該当するかどうか判断に迷う場合は、労働基準監督署に相談することもできます。
療養のために働けない状態であること
傷病手当金を受け取るためには、療養のために「労務不能」であると認められる必要があります。
労務不能とは、それまで担当していた業務ができない状態のことを指します。
仕事に就くことができないこと。仕事に就くことができない状態の判定は、療養担当者の意見等を基に、被保険者の仕事の内容を考慮して判断されます。
この判断は、医師の意見書に基づいて保険者が行います。
申請書には医師が記入する「療養担当者記入欄」があり、ここに労務不能である旨が記載されることが必要です。
連続3日間を含む4日以上の休業があること
傷病手当金は、休み始めた日から連続して3日間の「待期期間」が完成した後、4日目以降の休業に対して支給されます。
この連続3日間には、土日祝日や有給休暇を取得した日も含まれます。
待期期間の考え方を具体例で示します。
- 金曜・土曜・日曜と連続して休んだ場合 → 月曜日から支給対象
- 月曜・火曜と休み、水曜に出勤した場合 → 待期期間が成立しない
ポイントは「連続して」3日間休むことです。
途中で出勤日が入ると、待期期間のカウントがリセットされてしまうので注意が必要です。
休業中に給与の支払いがないこと
傷病手当金は、休業中の生活保障を目的とした制度です。
そのため、給与が支払われている間は支給されません。
休業した期間について給与の支払いがないこと。業務外の事由による病気やケガで休業している期間について生活保障を行う制度のため、給与が支払われている間は、傷病手当金は支給されません。
ただし、支払われる給与が傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。
有給休暇を使用した日については、給与が支払われるため傷病手当金の対象外となります。
待期期間の3日間は有給休暇を使い、4日目以降は有給を使わないようにすると、収入の空白期間を最小限に抑えられます。
傷病手当金に関するよくある質問
傷病手当金について、多くの方が疑問に感じるポイントをQ&A形式でまとめました。
申請前の不安解消にお役立てください。
Q. 傷病手当を会社が嫌がる理由は何ですか?
会社が傷病手当金の申請を嫌がる主な理由は、以下のようなものです。
- 事務手続きの負担が増えることへの懸念
- 従業員の休職による業務への影響
- 傷病手当金を会社が負担すると誤解している
- 休職中も社会保険料の支払いが続くことへの不満
しかし、会社には申請に協力する法的義務があります。
正当な理由なく拒否することは認められていないため、もし協力を得られない場合は、保険者への相談や専門家への依頼を検討しましょう。
Q. 手取り20万円の場合、傷病手当金はいくらもらえますか?
傷病手当金の支給額は、標準報酬月額をもとに計算されます。
計算式は以下のとおりです。
1日あたりの金額 = 直近12ヶ月の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3
手取り20万円の場合、標準報酬月額は26万円程度と仮定できます。
この場合の計算例を示します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 標準報酬月額(推定) | 約26万円 |
| 1日あたりの支給額 | 約5,780円 |
| 30日間の支給額 | 約17万円 |
実際の金額は、加入している健康保険組合や協会けんぽの計算に基づきます。
正確な金額を知りたい場合は、保険者に確認することをおすすめします。
Q. 傷病手当金の申請は会社にバレますか?
傷病手当金の申請には、会社(事業主)の証明欄への記入が必要です。
そのため、申請の事実は会社に伝わります。
ただし、病名などの詳細を会社に伝える義務はありません。
申請書の療養担当者記入欄に病名が記載されますが、この部分は医師が記入するものであり、会社が内容を確認できるとは限りません。
プライバシーを守りながら申請を進めたい場合は、必要最低限の情報のみを伝えるようにしましょう。
Q. 傷病手当金は言いづらいですが、どうすればいいですか?
申請を言い出しにくいと感じるのは、多くの方に共通する悩みです。
以下のポイントを意識すると、伝えやすくなります。
- 傷病手当金は法律で認められた正当な権利であると理解する
- 口頭で伝えにくければメールや書面を活用する
- 人事部門や総務部門に直接依頼する
- 伝える際は感情的にならず、事実を淡々と説明する
「申請したい」ではなく「申請に必要な協力をお願いしたい」という形で伝えると、相手も受け入れやすくなります。
どうしても言い出せない場合は、給付金サポートサービスの利用も検討してみてください。

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